キャビアとボルドーワインの組み合わせ
「キャビア」
言わずと知れた世界三大珍味のひとつ。チョウザメの卵を塩漬けしたものですね。洋食では前菜によく用いられており、ブルスケッタやマリネなどのアクセントとして登場したりします。前菜のタイミングでは、スパークリングワインや白ワインが提供される関係上、キャビアは上記ワインと相性が良いとされています。赤ワインとの相性はあまり語られません。
フルボディの赤ワインの銘醸地として有名なボルドー地方は、実はキャビアの名産地でもあります。ボルドー地方に多大な恵みを運ぶジロンド川、ガロンヌ川、ドルドーニュ川には、かつてチョウザメが広範囲にわたって生息していました。時代と共に生息域をだいぶ縮めてしまいましたが、今でもジロンド川ではチョウザメが養殖され高級キャビアを生産しています。
2018年にボルドー地方サン・テミリオン地区に畑を持つワイナリー「カッシーニ」を訪問した際、歓迎の食事をご用意頂いた中にキャビアがありました。かなりの高級品だったのを覚えています。
こちらのワイナリーは赤ワインしか造っていないので、必然的に食べ合わせも赤ワインとなりました。魚卵とワインはなかなか合わない事で知られていますので、恐る恐る口にしてみたところ・・・ 生臭みや磯臭さが広がるような事は無く、程よい塩気と優しいキャビアのコクで赤ワインをどんどん飲み進めてしまいました。そう、予想に反してとても美味しかったのです。
この体験を元に、先日オンラインのワイン会でキャビアとボルドーワインの食べ合わせを実施しました。ワイナリー訪問の際に飲んだボルドーワインは酸化防止剤無添加の優しい味わいの物でしたので、しっかりとした味わいを持つフルボディのボルドーワインとも試してみます。
オンライン会で用意したキャビアは「カルーガ・クイーン」というブランドの物です。中国の千島湖という美しい湖で養殖されたキャビアで、世界のトップシェフ「アラン・デュカス」がレストラン全店で使用しています。今回はこのブランドの中から比較的安価な「ハイブリッド」という物を使用しました。
食べ合わせで用意したワインは2018年に訪問したワイナリーの「カッシーニ/ボルドー・ルージュ 2015」と「ル・ルレ・ド・デュルフォール・ヴィヴァン 2018」です。(美味しくない会で終わってしまうと困るので、絶対合うスイスの白ワイン「シャスラ・ウヴァヴァン 2019」も用意しておきました。)
前者は軽めのボルドーワインで酸化防止剤は完全無添加、優しくもコク深い味わいが魅力の赤ワインです。一方後者はメドック格付け2級を持つドメーヌのセカンドラベル。ボルドーらしい骨格と複雑味、パワフルな味わいを持ったフルボディの赤ワインです。優しい赤ワインだけでなく、地の物つながりでフルボディ赤ワインにも合うのか? 期待と不安が入り混じる中食べ合わせてみます。
まずはカッシーニ作のボルドー・ルージュから。
こちらは自分の経験と同じく、美味しい食べ合わせとなってくれました。参加者の方々にもご納得頂けたようで、味わいの再確認と体験のシェアが出来ました。
そして問題のル・ルレ・ド・デュルフォール・ヴィヴァン。会の開催を前に、ワインに詳しい人達から意見を聞いてみましたが「恐らく合わないだろう」という意見でした。私も同意見でしたので「やっぱり合わないね」という結論を期待し、いざ実食。
なんと、全く喧嘩しませんでした! 美味しく食べ合わせる事ができてしまったのです。さすがに魚卵程度のコクでは、フルボディワインの味わいが勝ってしまいバランスの良い食べ合わせとは言えません。しかしながら磯臭さが際立つような事は一切なく、程よい塩気と、弱いとは言えキャビア特有の旨みが赤ワインの重さを緩和させてくれます。美味しいおつまみとして成立していました。
結局オンライン会で用意したワインは全てキャビアに合い「美味しいつまみは酒を選ばない」という意見を共有し、会を終了しました。
今回食べ合わせが成立した要因として、やはりキャビアの質が高かった事があります。保存の為に塩分の高いキャビアが多い中、カルーガ・クイーンの物は塩味がかなり控えめでした。また生臭みも感じられない物でしたので、キャビアの味をしっかり感じられた事が大きかったと思います。
しかしながら、キャビアとフルボディの赤ワインが合うとは思っていなかったので、今回の体験は衝撃的でした。普段は前菜というタイミングの為に赤ワインと食べ合わせる事が無かったキャビア。魚卵とワインは合わないという通説も相まって今まで食べ合わせる事の無かった組み合わせでしたが、おつまみとしてしっかり成立してみせました。
やってみて初めて分かる事がある。
ソムリエの資格を持ったとは言え、ワインの世界はまだまだ知らない事ばかりだと改めて痛感した経験でした。そして、また色々な事に挑戦してみたいと思えるような件でした。今後も面白い体験ができましたら記事にしていこうと思いますので、その時は是非ご一読頂ければと思います。
小林